新生児蘇生において最も重要なことは「遅延なき有効な人工呼吸が実践されること」です。
新生児蘇生法ガイドライン2015(以下NCPR2015)から新生児蘇生法ガイドライン2020(以下NCPR2020)にガイドラインが変わっても「人工呼吸の重要性」は変わることはありません。
NCPR2020における変更点を下記にまとめましたのでここで再確認していきましょう。より臨床現場に近く、判断が適切に行われることを意識した改訂が行われています。
新生児蘇生法アルゴリズム2020改訂コンセプト
新生児蘇生で最も重要なのは人工呼吸・胸骨圧迫へ進む救命の流れです。遅延なき有効な人工呼吸が実践できる個人の技術に加え、チームパフォーマンスが重要であるため、ガイドライン2020ではブリーフィングの重要性を明示しました。
小児科医が立ち会える体制では有効な人工呼吸・胸骨圧迫で改善しない場合はアドレナリン投与を可能な限り早期に投与します。
安定化の流れでは努力呼吸またはチアノーゼがある場合、直ちにCPAPまたはフリーフロー酸素投与を行うのではなく、SpO2モニタを装着したうえで病態に合わせた治療を選択しその後の評価を行います。
1) 新生児蘇生法の本質である救命の流れの強調
2015年までのアルゴリズムでは初期処置後の呼吸と心拍の評価後に、左に分岐する“救命の流れ”と右に分岐する“安定化の流れ”を対称的に配置していました。
しかし、新生児蘇生の本流は自発呼吸がないか心拍が100/分未満の際、遅滞なく有効な人工呼吸を行う救命の流れであるため、
“救命の流れ”における「評価」と「介入」を直線的に配置し、安定化の流れを右に分岐する形に配置しました。
2) 出生前のステップとしての”ブリーフィング“の表記の追加
今回の2020改訂でブリーフィングと蘇生後のデブリーフィングの効果についてスコーピングレビューが行われ、
ブリーフィングまたはデブリーフィングが児およびスタッフの短期的な臨床成績およびパフォーマンスのアウトカムを改善する可能性があると結論付けられました。
また、シミュレーション教育や臨床現場における学習として、ブリーフィングとデブリーディングの利用が推奨されました。従来の血液などの体液を介しての感染予防や蘇生物品の確認に加え、
Severe acute respiratory syndrome-corona virus 2感染症(COVID-19)流行下で飛沫感染防御やそのための装備の準備を含めたブリーフィングの重要性からもアルゴリズムの最初に出生と共に加えました。
※ブリーフィングとは・・・蘇生前の簡潔な情報共有や役割分担のための打ち合わせ
3) 人工呼吸に引き続く胸骨圧迫時の『+酸素』の表記の追加
有効な人工呼吸を30秒間行った後の評価で心拍が60/分未満であれば人工呼吸に加えて胸骨圧迫を開始すると共に酸素投与が必要となります。
これはNCPR2015から変更はありませんが、講習会でのシナリオ実習の際に、胸骨圧迫時の酸素投与を忘れることが多いため、今回の改訂でアルゴリズムに記載しました。
4) アドレナリン投与の優先順位から独立した表記に変更
今回の改訂でアドレナリン投与に関してシステマティックレビューが行われました。アドレナリン投与経路は、臍帯静脈内投与が第一選択として推奨され、投与量、投与間隔はNCPR2015から変更はありません。
初回投与が気管内投与であった場合、気管内投与によってその後の静脈ルート確立を遅らせるべきではないとされ、気管内投与後も心拍が60/分未満であれば、気管内投与との間隔にかかわらず静脈内投与が可能になれば静脈内投与を行います。
一方、容量負荷に関してはエビデンスアップデートが行われ、蘇生に反応しない、すなわち人工呼吸、胸骨圧迫、アドレナリン投与にもかかわらず状態改善のない出血のある新生児に対しては、
生理食塩水または赤血球濃厚液による早期の容量補充が適応となりますが、出血を伴わない新生児に対して循環血液増量薬の補充をルーチンに行うことを指示するエビデンスはないとされました。
このことから薬物投与において循環血液増量薬の投与はアドレナリン投与に先行して行うものではなく、今回の改訂ではアルゴリズム図においてアドレナリンを独立させることとしました。
5) 努力呼吸またはチアノーゼが『共にあり』から『どちらかあり』で安定化の流れに進むように変更
NCPR2015では努力呼吸とチアノーゼの確認を行い『共にあり』でSpO2モニタを装着してCPAPまたは酸素投与とし、『共にあり』ではない場合は蘇生後のケアに進み、努力呼吸のみが続く場合は原因検索とCPAPを検討し、
チアノーゼのみが続く場合はチアノーゼ性心疾患を鑑別するとしていました。しかし、臨床上、チアノーゼまたは努力呼吸がある場合はSpO2モニタを装着して鑑別診断を行い、必要時には治療を行うことが現実的です。
またCoSTR2020でも努力呼吸またはチアノーゼで次の介入へ進むため、今回の改訂では努力呼吸とチアノーゼの確認をし、『どちらかあり』と認めた場合は次の介入へ進むこととしました。
6) 安定化の流れでは 最初の介入は直ちに行うのではなく、『SpO2モニタを装着し必要時CPAPまたは酸素投与』に変更
安定化の流れでは自発呼吸と心拍が100/分以上であることが大前提で、この状態では脳及び心臓を含む各臓器は直ちに低酸素・虚血性障害をきたすものではありません。
そのため努力呼吸とチアノーゼのどちらかを認めた場合は『SpO2モニタを装着し必要時CPAPまたは酸素投与』に進むよう変更しました。
蘇生の初期処置後、自発呼吸が出現した児や充分啼泣している児は、生後すぐにはチアノーゼや酸素化不良があっても徐々に改善してくることがありますので、
努力呼吸は認めずチアノーゼのみがある児に対して直ちに酸素投与を行う必要はありません。
7) チアノーゼを『チアノーゼ(酸素化不良)』の表記へ変更
チアノーゼは毛細血管中の還元型ヘモグロビン(Hb)が5g/dL以上となると出現する病態です。一方、酸素飽和度は動脈血中の全赤血球に対してHbの何%に酸素が結合しているかを表したものです。
すなわちチアノーゼは多血症では認識されやすく、貧血では認識されにくいことになります。
Hb濃度によりチアノーゼが現れる動脈血酸素飽和度は変化するので、チアノーゼと酸素化不良は同義ではありません。
組織への酸素運搬を考えるうえで、より高い酸素飽和度が必要な貧血時にチアノーゼが認識されにくいことは、酸素投与が遅れる一因になります。
したがってSpO2モニタ装着前またはSpO2値が表示されていない状況下では皮膚色すなわちチアノーゼの有無で酸素化不良を判断しますが、
SpO2モニタが使用できる施設では動脈血酸素飽和度(SpO2値)で酸素化不良を判断します。
酸素化不良とはNCPRアルゴリズム図に記載された目標SpO2値を下まわる場合であり、NCPR2015から変更はありません。また、SpO2が上昇傾向にある場合は必ずしも介入を必要としない点も変更はありません。
8) CPAPまたはフリーフロー酸素を投与を開始した後、新たな評価基準として『改善傾向あり』を追加
NCPR2015のアルゴリズムでは努力呼吸とチアノーゼを共に認めた場合は、SpO2モニタ装着後直ちにCPAPまたは酸素投与を開始し、開始30秒後の評価で継続し努力呼吸とチアノーゼを共に認めた場合は人工呼吸に進むように読み取れました。
しかし臨床現場では改善傾向がある場合は人工呼吸を開始するのではなく、CPAPまたは酸素投与を継続することが現実的です。
そのため評価として『改善傾向あり』を加えこの場合はさらに同一の治療を継続して再度、努力呼吸とチアノーゼ(酸素化不良)の状態を確認することとしました。
9) 介入後の評価で努力呼吸とチアノーゼ(酸素化不良)が『改善傾向なし』の場合は原因検索を行いながら対応を検討に変更
NCPR2020のアルゴリズムでは努力呼吸またはチアノーゼ(酸素化不良)がCPAPまたは酸素投与で改善しない場合、
- ①努力呼吸と酸素化不良が続く場合には人工呼吸を検討
- ②酸素化不良のみが続く場合はチアノーゼ性心疾患を鑑別
として、一律に人工呼吸にステップを進めるのではなく、原因検索をしながら対応を検討するよう記載されています。
チアノーゼ(酸素化不良)がなく努力呼吸のみが続く場合は、蘇生のステップとしては終了、という判断をします。その先は原因疾患に基づいた治療を行います。
10) 蘇生後のケアは『注意深く呼吸観察を継続』のみに変更
NCPR2020においては蘇生後のケアに進むのは努力呼吸とチアノーゼ(酸素化不良)を共に認めない場合になります。
ただし、出生後早期は胎内生活から胎外生活への移行期であるため、NCPR2015のアルゴリズムにある『注意深く呼吸観察を継続』は残すこととしました。
11) 注釈(a) (b)の簡略化
- 注釈(a)について: 心拍またはSpO2値の改善がなければ酸素を追加、増量する、と記載変更されました。
- 注釈(b)について: 適切に換気ができていない場合は、すぐに胸骨圧迫に進まず、まずは有効な換気の確保に努める、と簡略化されました。
- 注釈(c)について: 記載変更はありません。